新聞小説「天地人」挿画展 津展ご挨拶

 2003年にスタートした新聞小説「天地人」は2005年に終了いたしましたが、一年おいた2007年、NHK大河ドラマ化が発表されました。以後、関連したお仕事をたくさんいただき、絵本作家になりたいといった子供時代の淡い夢にも願ったことのない、あらゆる仕事に挑戦させていただきました。
 単に幸運なご依頼に恵まれたというだけではありません。 南魚沼市、長岡市、上越市、米沢市など、縁の地で様々なお役目をいただいていると、なんとかして描き出せないだろうかと苦心していた主人公たちの凛々しい精神性、潔い行いを現代の人々が直に見せて下さっているかのような、心に残る場面に幾度も出会いました。謙信から受け継がれた上杉の「義のこころ」、民を愛し、ひと尊ぶ「愛のこころ」、厳寒に耐え、じっと春を待つ「雪国のこころ」――越の国の人々は清々しいおこころで、不慣れな私の仕事を支え、温かく歓迎して下さいました。とりわけ、連載のずっと以前から何十年もかけて、地元の武将を大河ドラマにと地道な努力を続けてこられた方々には学ぶべきことが多く、その上初対面でも懐かしい再会であるかのように心が通じ合い、その慈しみ深さに大変に励まされたものです。
 もっとも印象的な経験は、大河ドラマ化決定後の度重なる訪問の際、移動中の車窓から眺めた天地人のふるさとの景色によってもたらされました。坂戸山の雪景色、雲洞庵の杉林、山古志村の棚田、与板の田園地帯など、連載中は限られた資料のほか、想像力だけをたよりに描くほかなかった風景をはじめてこの目で見ることができたとき、時間と力量の不足で描ききれなかった不十分な部分が、歳月を経て許され補われていくかのように感じられたのです。それは、挿画展にいらしてくださった多数の人々が作品を楽しんで下さることによって、悩みながら描いた絵に何か力が授けられていくかのようにありがたく感じられたこととならび、めぐりあった方々のおこころの篤さ豊かさに導かれてこそ、体感できたことではないかと思っています。
 数々の得がたい経験のしめくくりに、私を育ててくれたふるさとが長い旅を終えた作品たちを迎えてくれることになり、感謝の気持ちはいっそう深まります。「ふるさとのこころ」との再会が、絵の余白に何を描き足し、こころの内に何を生み出してくれるのか、展覧会実現のため惜しみなく力を貸してくれた旧友たちとともに楽しみにしています。たのもしいメンバーたちはこの挿画展が、津市を愛する人々のご縁を活性化するひとつのきっかけになるだろうと最初から気づいており、準備期間中にすでに多くの手ごたえを感じていたようです。
 最後に、ふるさとならではの多くのご支援ご声援に深く感謝し、こころをこめて御礼を申しあげます。ありがとうございました。

中村麻美

 

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