日本武道館中道場「陣中将軍図」 『甲冑武具研究』213号にご掲載いただきました

一般社団法人日本甲冑武具研究保存会の月刊誌『甲冑武具研究』に、陣中将軍図制作を振り返っての思いを掲載いただきました。
永田仁志会長・西岡文夫副会長のご指導により制作した作品です。その経緯などを書かせていただきました。

「陣中将軍図」制作を振り返って
                                 画家 中村麻美
                          
 二回目となる東京オリンピック・パラリンピック競技大会を控え、日本武道館に練習場として中道場が新設されました。それに伴い、今秋(昨秋)100号本彩色作品「陣中将軍図」がお披露目となり、一般に公開されています。
 あれは二(三)年前の2018年春先のこと、日本武道館の三藤芳生前事務局長(現:理事・事務局顧問)から、「新道場に武道館の象徴となる武者絵を描いて下さい」とご依頼いただきました。そのような大役は荷が重いと申し上げましたが、武道館発行の月刊『武道』の表紙で長年武士の逸話を描いてきた中村さんにお願いしたいと激励いただき、ご指導仰ぐようご紹介いただいたのが日本甲冑武具研究保存会でした。
 永田仁志会長、西岡文夫副会長にお会いすると、まず誰を描くか、時代は、ポーズはと、畏れる間も無く準備が始まりました。当初、「衣のたては」「雁の群れに伏兵を知る」など、重ねて描く八幡太郎義家を描きたいと申し上げると、義家の時代は正確な考証が難しい、考証可能な古い時代の武者絵を描くのがよいでしょうとご教導いただきました。つづいて100号(1620×1300mm)縦位置では立ち姿は小さくなる、座るなら鎧櫃か、など会長副会長に次々にご助言いただいたのでした。
 その後のラフスケッチの段階で、西岡先生に厳しくご指導いただきました。小さい挿画で描くのとはわけが違います。「武装図説」を片手に一から大鎧の甲冑を勉強する毎日が始まりました。
 8月、お弟子さんが甲冑着用の上モデルになって下さり、写真を撮影、そこから小下絵を起こしました。大下絵にした時点でも、多大にご指導いただきました。吹返、錣、栴檀の板鳩尾の板の大きさバランスなど、油断すると微妙にくるってしまいます。また時間の関係で描く手順を工夫せねばならず、彩色は懸念だった絵韋から始めましたが、実際一番苦労したのは威糸でした。赤糸威は大鎧武者絵の命です。最初それを勘違いして細く描いてしまい、後にそれは経年劣化したときの態と知り、大変勉強になりました。色出しとしては、鎧直垂の錦の色にもっとも苦心しました。また、刀と腰紐の関係にも常に悩みますが、西岡先生の奥様がモデルになって写真を送って下さる等、日々涙こぼるるご協力を得て、二年間絵筆を進め、ついに完成することができました。
積年にわたる厳しいご研究の成果を惜しみなく授けて下さる皆様のおこころの深さに助けていただきました。歴史を尊ばれる方々は皆様そうですが、慈悲深く、力をお貸し下さるのでいつもなんとか仕事ができております。
日本武道館中道場ホールにお納めした「陣中将軍図」は、理想の武士を目指して描いたものです。将軍の眼差しに言葉に尽くせぬ思いを込めました。いつかご高覧頂けましたら幸甚に存じます。尊いご教示、誠に有難うございました。

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